再生医療コラム放射線治療医からセカンドオピニオンを受けるメリット

東京放射線クリニック 院長
柏原 賢一(かしはら けんいち)先生

※所属・肩書はコラム執筆当時(2018年9月)のものです

米国に比べて普及率が低いがんに対する日本の放射線治療数。その効果は手術と同等、もしくはそれ以上とされながらも、なぜいまだに普及率は低いままなのでしょうか?日本における放射線治療の現状や効果、そして放射線科の医師にセカンドオピニオンを受けるメリット等について、東京放射線クリニック院長、柏原賢一先生にお話を伺いました。

日本で放射線治療が普及しない理由

定位放射線治療、強度変調放射線治療、はX線・γ線による治療方法、陽子線治療、重粒子線治療は粒子線を用いた治療、その他にも中性子とα線を用いているホウ素中性子捕捉療法、体内に放射線源を入れて照射する密封小線源治療などがあります。近年、放射線による治療は近年大きく進歩してきました。照射範囲をがん細胞だけに絞り、集中的に放射線を照射し、周囲の正常細胞には影響を与えないように治療ができるようになってきました。

放射線療法の治療成績は手術と同等以上といわれます。確かにそうなのですが、手術、抗がん剤治療と並んで3大治療の1つである放射線治療は、日本では十分に普及しているとはいえません。米国ではがん患者の半数以上が放射線療法を受けているのに対して、日本ではせいぜい30%程度です。

その理由はいろいろ考えられますが、日本ではがんの治療は手術が基本という考え方が浸透していることが大きく影響しているでしょう。

また、大学医学部に放射線科の教室があっても、講義は「診断」が中心で、「治療」について学ぶ機会が少ないという事情もあります。そのため、医師が意識的に知識を深めなければ、いつまでたっても馴染みのない治療法であり、縦割り組織の日本の医療機関ではさらに遠い存在になるのも不思議ではありません。医師の間でも、放射線治療の効果について十分に知られていないのです。

では、米国で放射線治療を受ける患者の割合が高いのはなぜでしょう。診療科の垣根を越えて一人ひとりの患者さんに最適な治療法を検討する環境が整っているからです。そこで重要な役割を果たしているのがキャンサーボードです。

キャンサーボードは、手術、放射線療法、化学療法の各分野から専門的な知識と技能をもった医師や医療スタッフなどが集まって、がん患者の症状、状態、再発の有無、治療方針などについて意見交換などをするためのカンファレンスです。

日本でも厚生労働省が2008年に「がん診療連携拠点病院の整備について」でがん診療連携拠点病院の指定要件として、キャンサーボードを設置し、定期開催をするように通知しました。キャンサーボードは、個々の患者(家族)にとって質の高いがん医療を提供することが目的ですが、日本では「診断が困難な症例、治療方針の難しい症例など」に対象が限定されてしまっているのが実情です。

前立腺がんの治療成績――強度変調放射線治療(IMRT)は重粒子線治療と同等以上

新しい放射線治療機器が次々に開発され、がんの治療技術は日進月歩で向上しています。がんに対して3次元のさまざまな方向・角度から照射できる技術や、放射線の強さを変える技術や、がんの形に合わせて高精度で照射する技術などによって、副作用を抑えて、高い治療効果を生み出すことが可能になりました。

がん治療に使われる放射線は、光子線(X線、γ線など)と粒子線(陽子線、重粒子線)の2つに大きく分けられます。がんの内部で最大のエネルギーを放出して消失する陽子線や重粒子線を使った治療法は革新的で理想的ともいえます。

現在、陽子線治療は小児の限局性の固形悪性腫瘍、骨軟部腫瘍、頭頸部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)、前立腺がんが、また、重粒子線治療は骨軟部腫瘍、頭頸部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)、前立腺がんが、それぞれ保険適用の対象になっています。

参考までに一言付け加えると、高価な最先端医療機器を使えば、それだけ医療費はかさみます。前立腺がんの治療成績については、当クリニックでも行っている強度変調放射線治療(IMRT)は他施設の重粒子線治療と同等以上です。IMRTは、さまざまな方向から放射線を照射する時に、線量に強弱をつける治療法です。

がんの形が複雑な場合や、がんの近くに正常組織が隣接している場合に、正常組織に当たる放射線の量を最小限に抑えながら、がんに多くの放射線を当てることが可能です。前立腺がん、頭頸部がん、脳腫瘍(希少がん)では、正常組織にも大きなダメージを与えてしまうことから、従来の放射線治療では困難でしたが、IMRTを使うことで、正常細胞へのダメージをより少なくできるようになったのです。

当クリニックでも最近は放射線治療を希望して他の医療機関の泌尿器科から紹介されてくる前立腺がんの患者さんが増えています。徐々にではありますが、放射線治療の効果とメリットが一般の方に浸透してきているのかもしれません。

免疫療法と放射線療法の併用で生まれる可能性

周知のように、近年の抗がん剤の開発は目覚ましく、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場でオーダーメイドのがん治療が現実味を帯びてきました。これらの薬剤と放射線治療との併用が治療効果を上げることもわかってきました。肺がん、頭頸部がん、悪性黒色腫(メラノーマ)の患者を対象にした米国の臨床試験で、免疫チェックポイント阻害薬と定位放射線治療の併用効果が報告されています。

いま注目されているのは、免疫療法と放射線療法の併用により「アブスコパル効果」の発現を高める可能性です。放射線治療では、放射線を照射したがんだけでなく、それ以外のがんまで小さくなることがあります。こうした間接効果を「アブスコパル効果」といいます。

放射線ががんに照射されることによってがんに対する免疫が活性化し、放射線が当たってない部分で連鎖的に抗がん作用が起こることがわかっています。大腸がんが肺に転移した患者さんで、肺の転移巣一か所に放射線を照射したところ、照射していない他の肺に転移がんが消失するという例もあります。将来、術後の抗がん剤治療に取って替わることも夢ではありません。

勇気をもって担当医以外に意思表示。セカンドオピニオンの積極的活用を

柏原 賢一先生の写真

ここまで述べてきたように、放射線治療にはさまざまなメリットがありますが、日本には放射線治療の専門医が少なく、国内のどこででも均質の医療が提供されているわけではありません。

セカンドオピニオンを聞く先や、放射線治療を受ける医療機関を選ぶ場合、厚生労働省が定める施設基準や日本放射線腫瘍学会の認定基準が目安の1つになるでしょう。

当クリニックには、他の医療機関で「放射線治療はできません」、「抗がん剤しかありません」などといわれ、治療方針に疑問を持った人がセカンドオピニオンを求めて来院します。セカンドオピニオンは、主治医以外の医師に求める第2の意見です。

患者さんの中には、セカンドオピニオンは医師を変えることと誤解している人がいますが、患者さんにとって最善となる治療を患者さんと主治医で決めるために別の医師の意見を聞くことが趣旨です。セカンドオピニオンを聞いて、その結果別の医師の治療を受けるために病院を替えることはあります。

もう1つ重要なことは、セカンドオピニオンを求める先は、主治医とは違う診療科の医師を選ぶということです。外科医を主治医に持つ患者さんが、ほかの病院外科医のセカンドオピニオンを聞くよりも、腫瘍内科や放射線科の医師の見解を聞く方が、違った視点から治療法の選択肢を知ることができるためです。

放射線科医は病理医と同様にすべてのがんに関わるため、がん全体を把握し、中立的な視点で評価できるため、セカンドオピニオンに向いていると言えるでしょう。

当クリニックでは月に15~20人がセカンドオピニオンを受けていますが、年に40人ぐらいは放射線治療に切り替わります。それは決して、私が放射線科医だから放射線治療を推薦し誘導しているということではありません。主治医の方針どおり手術を勧めることがあれば、化学療法を勧めることもあります。その方に合った治療法をニュートラルな視点からお伝えし、また、それぞれの選択肢のメリット、デメリットをお話するようにしています。それが医師の役割であると私は考えます。

主治医との関係が悪化することを懸念して、セカンドオピニオンのことを言い出しづらいという人も多くいらっしゃいますが、気になることがあれば質問して、受けたい治療を主張すればいいと思います。聞き分けのよい“優等生”である必要はありません。皆さんが勇気をもって意思表示をしてください。

治療の選択肢を知る権利が、患者さんには当然あるべきなのです。

ポイントまとめ

  • 米国ではがん患者の半数以上が放射線療法を選択しているが、日本では30%程度。日本ではがんの治療は手術が基本という考え方が浸透していることが大きく影響。
  • 前立腺がんにおいて、強度変調放射線治療(IMRT)の治療成績は重粒子線治療と同等以上。
  • 放射線を照射したがんだけでなく、それ以外のがんまで小さくなることを「アブスコパル効果」と呼ぶ。放射線治療と免疫療法を併用することで、発現を高める可能性も。
  • セカンドオピニオンや放射線治療を受ける医療機関を選ぶ際、厚生労働省が定める施設基準や日本放射線腫瘍学会の認定基準が目安の1つ。
  • セカンドオピニオンを求める先は、主治医とは違う診療科の医師を選ぶ。

コラム:放射線治療とは?

放射線治療は保険診療で受けることのできる標準治療(手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療)のうちの一つで、がんが発生した部位に放射線を照射してがん細胞のみを死滅させることを目的とした治療法です。放射線治療単体で行う治療のほか、再発・転移予防として手術の前後に併用して行う治療法や、化学療法と組み合わせた治療法などもあります。また、骨転移による痛みや、がんが神経を圧迫することで起きるしびれ等を和らげるなど、痛みや苦痛の緩和を目的として放射線治療が行われることもあります。

体の外から部位に放射線をあてる体外照射が一般的ですが、放射線を発生させる器具を体内に挿入する方法や、飲み薬や注射で放射線を投与する内部照射という照射方法もあります。照射(治療)による痛みはなく、放射線治療単体の場合は、通院で治療が行われることも多いです。副作用は、主に放射線が当たった場所に発生します。症状や発生時期に個人差もあり、治療部位やがん種によって症状もさまざまです。放射線が当たった皮膚にかゆみが発生するなどの局所的なものから、食欲不振や疲労感・倦怠感など全身的な症状が出ることもあります。

取材にご協力いただいたドクター

柏原 賢一(かしはら けんいち)医師

柏原 賢一(かしはら けんいち)医師

医学博士 日本医学放射線学会 放射線治療専門医

日本医学放射線学会専門医
日本放射線腫瘍学会認定医
日本核医学会核医学専門医
日本核医学会PET核医学認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医
日本放射線腫瘍学会及び日本医学放射線学会放射線治療専門医


記載されている所属・肩書は、2024年06月時点のものです。