再生医療コラム大腸がん術後の治療選択を考える ― 血液検査による遺伝子解析という新しい判断材料 ―
がん治療
公開日:2026年02月26日
島袋誠守 (しまぶくまさもり)先生
※所属・肩書はコラム執筆当時(2026年2月時点)のものです
大腸がんの手術後、「抗がん剤治療は必要なのか」「再発のリスクはどのくらいあるのか」と悩まれる患者様は少なくありません。
近年、術後の治療選択を考えるうえで注目されている「血液検査による遺伝子解析」について、東京ミッドタウン先端医療研究所 所長の島袋誠守 医師にお話を伺いました。
はじめに:術後治療で「迷う」のは当たり前
大腸がんの手術が無事に終わり、「がんは取りきれました」と医師から告げられたとき、ほっとされる方がほとんどだと思います。しかし同時に、「この先、抗がん剤治療は必要なのか?」「再発のリスクはどのくらいあるのか?」といった新たな不安が生まれることも少なくありません。
特にStage Ⅱの大腸がんの場合、治療方針の判断は一律ではありません。大腸がん治療ガイドラインでは、「すべての患者様に一律に抗がん剤治療を行うことは推奨されていない」とされています。一方で、「再発リスクが高いと考えられる場合には、抗がん剤治療を検討する」とも示されています。
つまり、「全員に必要」でも「全員に不要」でもない。だからこそ、患者様やご家族は「自分の場合はどうすればいいのか?」と迷われるのです。この判断には、医学的な情報だけでなく、患者様ご自身の価値観や生活状況も含めて、総合的に考える必要があります。
血液検査による遺伝子解析(リキッドバイオプシー)とは
術後の治療方針を考えるうえで、近年注目されているのが「血液検査による遺伝子解析」です。この検査は「リキッドバイオプシー(液体生検)」とも呼ばれ、血液の中に含まれる、がんに由来するDNAの断片を調べる検査です。
血液から分かる「がんの痕跡」
がん細胞のDNAは、細胞死などにより血液中に漏れ出します。ここの血液中に漂うがん由来のDNAを「血中循環腫瘍DNA」と呼びます。手術でがんを取り除いた後でも、目に見えないレベルでがん細胞が体内に残っている場合、このDNAが血液中に検出されることがあります。
血液検査による遺伝子解析では、採血した血液からこのがん由来のDNAを探し出し、その有無を調べます。
従来の検査との違い
従来の病理検査や画像検査とは異なり、血液という「体液」からがんの情報を得る点が特徴です。採血だけで検査ができるため、患者様の身体的負担が少ないというメリットがあります。
検査結果の見方
検査の結果は、シンプルに「検出された(陽性)」か「検出されなかった(陰性)」で示されます。
- 陽性の場合:がん由来のDNAが検出されたことを意味し、目に見えないレベルでがん細胞が残っている可能性があり、再発リスクがより高い可能性を示唆します。
- 陰性の場合:血液中にがん由来のDNAが検出されなかったことを意味し、再発リスクが比較的低い可能性を示唆します。
近年の取り組み ―医療現場での活用が進んでいます―
血液検査による遺伝子解析は、日本国内だけでなく、世界中の医療機関で術後治療の判断材料として活用が進んでいます。
学会での議論
2025年に開催されたヨーロッパ臨床腫瘍学会(ESMO 2025)では、大腸がん術後の治療個別化において、血液検査による遺伝子解析が重要なテーマとして議論されました。
特に注目されたのは、この検査が「患者様と医師が一緒に治療を考えるための重要な情報」になり得るという点です。従来は、病理検査の結果や画像検査の所見をもとに判断することが中心でしたが、血液検査による遺伝子解析を加えることで、より多角的に患者様の状態を把握できるようになってきています。
術後の再発リスク評価への期待
これまで、術後の再発リスクは、病理検査でのリンパ節転移の有無やがんの深達度、がん細胞の性質などから総合的に判断されてきました。しかし、それでもなお「本当に治療が必要なのか」「経過観察で大丈夫なのか」という判断が難しいケースが少なくありませんでした。
血液検査による遺伝子解析は、こうした「判断が難しい患者様」の再発リスクをより正確に層別化し、お一人おひとりに合った治療方針を考えるための新しい材料として期待されています。
日本国内でも、先進的な医療機関での導入が進んでおり、術後治療の選択肢を広げる取り組みが行われています。
検査結果をどう活かすか
「検査結果=治療方針」ではない
まず大切なのは、血液検査による遺伝子解析の結果だけで治療方針が決まるわけではない、ということです。
この検査は、あくまで「判断材料のひとつ」です。術後の治療方針を考えるうえでは、この検査結果に加えて、以下のような情報を総合的に見ていく必要があります。
- 手術で取り除いた組織の病理検査結果
- がんの進行度(ステージ)
- リンパ節への転移の有無
- がん細胞の性質や特徴
- 患者様の年齢や体力、生活状況
- 患者様ご自身のお考えやご希望
これらの情報を総合的に見て、「再発リスクがどの程度あるか」「治療による効果と負担のバランスはどうか」を、医師と一緒に考えていくことが大切です。
患者様お一人おひとりの状況に合わせて
同じ検査結果であっても、患者様によって最適な治療方針は異なります。
また、血液検査による遺伝子解析は有用な検査ですが、精度には限界があります。たとえば、「陰性」だったからといって「絶対に再発しない」というわけではありませんし、「陽性」だったからといって「必ず再発する」というわけでもありません。ごく微量のDNAは検出できない場合もあるため、この検査結果だけに頼るのではなく、定期的な画像検査や血液検査など、他の検査と組み合わせて経過を見ていくことが重要です。
たとえば、検査結果が「陽性」であった場合でも、患者様の体力や年齢、生活状況、ご本人のお考えによって、「積極的に抗がん剤治療を行う」という選択もあれば、「まずは経過観察を優先し、慎重に様子を見る」という選択もあり得ます。
医師は、検査結果をもとに医学的な見解をお伝えしますが、最終的な治療方針は、患者様と医師が一緒に相談しながら決めていくものです。
患者様と医師が一緒に考えることの大切さ
術後の治療選択において、「正解」はひとつではありません。医学的な情報はもちろん重要ですが、それだけで決められるものでもありません。患者様ご自身の価値観、生活状況、これからどう過ごしたいかというお気持ちも含めて、総合的に考えていく必要があります。
どの段階でも、医師と相談しながら
治療方針を考える過程では、さまざまな疑問や不安が生まれるものです。
「この検査結果は、自分の場合どういう意味があるのか」
「抗がん剤治療をした場合としなかった場合で、何が違うのか」
こうした疑問や不安は、遠慮なく医師に伝えていただきたいと思います。医師は、患者様の状況を踏まえて、わかりやすく説明し、一緒に考えていくことを大切にしています。
患者様お一人おひとりに合わせた治療提案
東京ミッドタウン先端医療研究所では、血液検査による遺伝子解析の結果をもとに、患者様お一人おひとりの状況に合わせた治療方針を、医師と相談しながら決めていくことを大切にしています。
検査結果だけでなく、患者様のご希望や生活状況も丁寧にお聞きしながら、最適な選択肢をご提案いたします。また、必要に応じて適切な医療機関へのご紹介も行っています。
おわりに:納得して選択するために
術後の治療選択で迷われたとき、大切なのは「情報を整理し、ご自身の不安や希望を言葉にすること」です。
血液検査による遺伝子解析は、判断材料のひとつとして、患者様と医師が一緒に治療を考えるための新しい選択肢です。検査結果をもとに、ご自身の状況を整理し、納得できる治療方針を医師と相談しながら決めていくことが何より大切です。
術後の治療についてお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。
取材にご協力いただいたドクター

島袋 誠守(しまぶく まさもり)医師
東京ミッドタウン先端医療研究所 所長
東京ミッドタウン先端医療研究所は、患者様・ご家族に正確な情報を提供し、最適な治療選択を支援することを使命とし、お一人おひとりに合わせた治療法をご提案。国内外の大学・研究機関と連携し、新しい治療や臨床研究を行っています。