免疫細胞を用いた再生医療【膵臓がん】肝転移を伴うステージ4膵臓がんに対し、WT1・ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法と継続的な治療方針の見直しにより長期生存を実現した症例

70代 男性

70代 男性

診断名
膵臓がん、肝転移、ステージ4

現病歴

2018年4月
検診で膵頭部に14mmの腫瘍が認められた。
2018年8月
内視鏡による組織検査にて膵臓がん(低分化型腺癌)と診断。MRI検査で肝臓への転移を確認。ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(抗がん剤治療)を開始。
2018年10月~2019年1月
HLA2402に対応したWT1樹状細胞ワクチン療法を実施。
2018年12月
CT検査で部分奏効(腫瘍の縮小)を確認。
2019年2月
CT検査で部分奏効の継続を確認。
2019年2月~9月
HLA2602に対応したWT1樹状細胞ワクチン療法を実施。
2019年4月
肝転移巣に対して1回目のラジオ波焼灼術を実施。
2019年7月
重粒子線治療を実施。
2019年11月
MRI検査で前回RFA施行部位近傍に肝転移の再発を確認。
2019年12月
2回目のラジオ波焼灼術を実施。
2020年9月~
ゲムシタビン単剤療法(抗がん剤治療)を開始。
2020年10月~
TS-1(抗がん剤治療)に変更。
2021年5月
血液を用いた遺伝子検査(リキッドバイオプシー)を実施。
2021年9月~2022年4月
患者様固有の遺伝子変異に基づくネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法を実施。
2021年12月
抗がん剤治療を終了。
2022年6月~2023年1月
3クール目のWT1樹状細胞ワクチン療法を実施。
2025年7月
WT1樹状細胞ワクチン療法を単独(2ヶ月毎の投与)で継続し、再発なく健在。

CT/MRI画像で見る治療経過

治療前のCT・MRI(2018年8月)では膵頭部に14mmの腫瘍(図1)が認められ、肝臓への転移も確認されました(図3)
抗がん剤治療とWT1樹状細胞ワクチン療法の併用により病変が6ヶ月以上安定していたことから、原発巣に対して重粒子線治療、肝転移巣に対してラジオ波焼灼術を実施しました。
重粒子線治療後も原発巣の病状がコントロールできていることが確認され(図2)、ラジオ波焼灼術後の造影CTでは、焼灼された部位は造影効果を認めなくなりました(図4)

原発巣(膵頭部)

図1:2018年8月 膵頭部に14mmの腫瘍(黄丸部)

2018年8月の原発巣画像

図2:2020年1月 重粒子線治療後の原発巣

2020年1月の原発巣画像

肝転移巣

図3:2018年8月 肝転移巣(黄丸部)

2018年8月の肝転移巣画像

図4:2019年5月 ラジオ波焼灼術後の肝転移巣

2019年5月の肝転移巣画像

当施設での治療概要

当施設では、免疫療法として「WT1樹状細胞ワクチン療法」および「ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法」を実施しました。

治療スケジュール

  • 2018年10月~2019年1月:HLA2402に対応したWT1樹状細胞ワクチン療法を実施(1クール目)
  • 2019年2月~9月:HLA2602に対応したWT1樹状細胞ワクチン療法を実施(2クール目)
  • 2021年5月:血液を用いた遺伝子検査(Guardant Health社のリキッドバイオプシー)を実施
  • 2021年9月~2022年4月:ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法を実施
  • 2022年2月:2回目リキッドバイオプシー(Guardant Health社)を実施
  • 2022年6月~2023年1月:3クール目HLA ClassⅠ/ⅡがlinkしたNeoWT1樹状細胞ワクチン療法を実施(3クール目)
  • 2023年1月:3回目リキッドバイオプシー(ジェノダイブファーマ社)を実施し、ターゲット遺伝子変異の減少を確認
  • 2025年7月現在:WT1樹状細胞ワクチン療法(2ヶ月毎の投与)のみを継続中

経過と変化

本症例は、肝転移を伴うステージ4の膵臓がんに対して、免疫療法を併用した集学的治療により長期生存を実現した例です。

初回治療では、抗がん剤治療にWT1樹状細胞ワクチン療法を併用することで8ヶ月間にわたり病状が安定し、積極的な局所治療(ラジオ波焼灼術・重粒子線治療)を実施することができました。

治療途中でWT1樹状細胞ワクチン療法を継続していたにもかかわらず肝転移の再発が確認された際、患者様とも相談の上、血液を用いた遺伝子解析(リキッドバイオプシー)を実施しました。その結果に基づき、患者様固有の遺伝子変異をターゲットとした個別化治療(ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法)を実施しましたが、治療途中の検査では遺伝子変異の十分な減少が認められませんでした。

この状況を受けて、最初の1クール目で良好な反応が得られていたWT1樹状細胞ワクチン療法に再び切り替えました。同じ治療であっても、その時々の患者様の状況に応じて治療効果は変わることがあるため、継続的に検査を行いながら最適な治療を選択していくことが重要です。

WT1樹状細胞ワクチン療法再開後の遺伝子解析では、ターゲット遺伝子変異とがん遺伝子変異の総量の減少が確認されました。2021年12月に抗がん剤治療を終了した後も、免疫療法を継続することで病勢の安定を維持しており、2025年7月現在、診断から約7年が経過し、再発なく健在です。

本症例では、標準治療に免疫療法を併用し、複数回の遺伝子検査による治療効果の評価と、患者様の状況に合わせた治療選択を継続することで、長期生存が実現できた症例と考えられます。

副作用について

「樹状細胞ワクチン療法」の主な副作用として、38度前後の発熱やワクチン投与部位の発赤が報告されています。これらは免疫反応によるものと考えられていますが、個人差があります。
これまでに重篤な副作用の報告はありません。

当施設での費用

本症例では、「WT1樹状細胞ワクチン療法」を3クール、「ネオアンチゲン樹状細胞ワクチン療法」を1クール実施し、現在もWT1樹状細胞ワクチン療法を継続しています。

  • 本治療は自由診療(保険適用外)です。
  • 当施設で治療を受けられる場合、1クール分(7回投与)の費用には、治療中に必要な血液検査、ワクチンの作製・保管、投与費用などが含まれます。
  • 1クール(7回投与)の治療費の目安:280万円(税込)程度です。
  • お身体の状態や治療内容によって費用は異なる場合があります。
  • 初診料・再診料・相談料等、治療内容によって異なります。
  • 日本の健康保険証をお持ちでない方は、費用が異なります。

Doctor's Comment

一つの治療法にこだわらず、あきらめずに様々なアプローチを組み合わせて治療に取り組むことが大切です。複数回の遺伝子検査により、その時々の患者様の状況に応じた治療を選択し、長期間にわたり生活の質を維持しながら治療を続けることができました。

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所長 島袋誠守 医師

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